時計屋の秘密

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「この時計、ただの飾りじゃないんだよ」
「どういう意味ですか?」
店主は薄く微笑みながら、古びた掛け時計を指さした。
「見てごらん、針が止まった瞬間、時間が少しだけ戻る」
「戻る…?」
「うん、人が大事に思う一瞬だけ、ね」
私は目を丸くした。指先でそっと触れると、微かに温かい感触が伝わる。
「本当に…?」
「確かめてみる?」
私は迷ったが、好奇心に勝てず頷いた。時計がカチリと音を立てるたび、部屋の空気が少しずつ変わる。
「ほら、見えるだろう?」
窓の外の景色が、昨日の光に包まれた。秘密の時計屋は、時を操る小さな魔法の館だった。
ミステリー・推理
公開:25/11/22 12:40
更新:25/11/22 12:40

森康雄( 千葉 )

短い物語の中に、小さな驚きと余韻をそっと閉じ込めています。
読んでくださる方の日常に、ひとしずくの“たのしい違和感”を届けられたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
(画像はフリー素材を使用しています。)
 

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