アチコチ電池

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小さな置時計をもらった。直径五センチほどで、壊れて動かないというが、電池を替えれば復活するのではと裏蓋を開けようとした。
だがこれが固く指が痛くなるほど格闘し、最後はナイフの薄い刃を差し込み、やっとパキッと開いた。
中から現れたのは、見たこともない極小のボタン電池だ。直径4.5mm程で虫眼鏡を使いやっと記号を読み取った。
しかし街中を探し歩ても同じものは見つからない。それどころか、そんな電池は聞いたことがないと笑われる始末だ。ならば自然界に落ちているのかもしれないと妙な確信めいたものが胸に芽生え、野山をあてもなく歩き回った。
次第に夢中になり、足元も見ずに進んだせいで、気づけば池へ真っ逆さまに落下した。冷たい水に悲鳴をあげつつ目を開けると、底に淡い光が沈んでいた。拾い上げれば、探し求めた電池そのものだった。電池は池にある、そんな言葉遊びのような真実に導かれ時計は再び静かに時を刻み始めた。
ファンタジー
公開:25/11/19 11:01

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