靴ひも

皆さん、はじめまして。私、かの有名な裸の王様に”馬鹿者には見えない布地”を売った、あの服屋でございます。
実は私、あの後も”馬鹿者には見えない布地”を王族連中に売り歩いておりました。
王族相手にこの商売は非常に楽でしたよ。本当に存在する、と少しでも思い込ませたらこっちのものでした。
まあ、中には当然、詐欺を疑う者もいましたよ。そこに布地はない！とはっきり言われました。
そこで私、南蛮渡来の”だいそん扇風機”を持ち出しました。
羽のない扇風機であるこれは、羽がないのに風が起こる。この羽は馬鹿者には見えないと言えば、やはり相手は、ころりと騙されてくれました。
ある時、いつものように王族相手に”馬鹿者には見えない布地”を売っていたら、相手から「それで靴ひもを作ってくれ」と、言われてしまいました。
…してやられましたね。油断していました。
気の緩みは靴ひもの緩み。私の商売が躓いた瞬間でした。