問いの塔

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古の王国に、答えを無限に返す魔導書があった。
若き魔術師はその書を開き、戦略も未来も瞬時に知ることができた。
だが、塔の最上階に住む老賢者は静かに告げた。

「答えは外からやってくる。だが、問いは心の奥からしか生まれぬ」

魔術師は迷った。魔導書の答えにすがれば王国は安泰だ、と心は囁いた。
だが「何のために?」という問いには沈黙しか返らない。

老賢者は杖を床に突き、塔の石壁に響かせた。
「真摯さとは、問いを誤魔化さぬことだ。未来を狭めぬことだ」

魔術師はやがて魔導書に向かい、初めて答えを求めずに問いを書き込んだ。
──「我らは何を守るべきか?」

光る文字が一瞬浮かび、やがて消えた。
沈黙は塔を越え、王国の広場にまで広がった。
その沈黙こそが、王国を導く最も豊かな余白となった。
ファンタジー
公開:25/11/21 06:57
更新:25/11/24 08:41

問い屋

一瞬のズレを物語に仕込み、  

読み終えたあとに問いが残る作品を書いています。

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