眠りの階段

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螺旋がある。
石造りの階段は眠りの名を持ち、登る者はひとり。

冷たい石が掌に染み、足裏は摩耗に軋む。
段を重ねるごとに瞳の光は薄れ、呼吸は砂のように喉を削る。
「まだ登れるのか」――胸の奥で声が揺れ、恐怖と諦観が交錯する。

壁に並ぶ時計の針は狂ったように回転し、時間が皮膚を削り取っていく。

上方から響く音が告げる。
「替えはいくらでもいる。」
その響きは鉄の裂ける音に似ていた。

隣の影はただ笑い、蝋のように固まっていた。

やがて登る者は力尽き、階段の途中で崩れ落ちる。

沈黙が囁く。
「長き歳月を費やして育まれたものを、数年で摩耗させるとは…」

その声は石壁に染み込み、狂った針を一瞬止めた。
だが次の瞬間、針は再び動き、冷たい空気が肌を撫でた。

眠りの階段はなお螺旋を描き続ける。
階段の口は、なお開いたまま。
その口を閉じるのは、誰なのか。
ホラー
公開:25/11/20 20:11
更新:25/11/24 08:38

問い屋

一瞬のズレを物語に仕込み、
読み終えたあとに問いが残る作品を書いています。
答えが出ても、出なくても。
あなたの一行が、この物語の余白を広げます。

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