遠き山に陽は落ちて

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曲がり角の先の夕陽が住宅の窓に燃える
その角を曲がれば簡単に顔をあわせられるのに
それをしない私に夕陽はたぶん怒っている

暑い日を彩っていた朝顔が茶色にしおれ
夏の面影が感じられない
その色褪せた朝顔でさえも
夕陽はオレンジに染め上げる

曲がり角の手前のフェンスの内側で
オレンジの光をさけるように
高校生くらいの男の子と女の子
ふたりの向き合っている姿を
まだいくらか葉の残る木々の向こうに見つける

もじもじしている男の子は片方の手を頭に
女の子はすこしうつむきかげんで
照れかくしと恥ずかしさと

人が人と付き合う瞬間を
離れてしばし見守る

ややあってふたりは互いの手をとり
オレンジの光のなかへと消えてしまう

遠き山に陽は落ちて

私が歩んでこなかったふたりの姿
この先どうやっても私には叶えられないその姿
胸がちょっぴり苦しくなって
たまらず曲がり角を先へと急ぐ








.
その他
公開:25/11/20 15:25

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