缶蹴り

10
6

夕暮れの校庭で、僕らは缶蹴りを始めた。錆びた缶を一人が蹴ると、鈍い音が薄闇に吸い込まれていく。
鬼になったマサオが必死に缶を拾いに行くが、その間に子たちは隠れる。
僕は運動具倉庫の内に身を潜めたつもりだったが、足元のボールがひとりでに転がり、薄青い光を帯びて跳ねて行く。
誰も触れていないのに、もっと遠くへ誘うように転がっている。
ボールは校庭の中央で止まり、こちらをジット見つめるように震えている。
追いかけようとした瞬間、背後でマサオのケンちゃん見ッヶとの叫び声が風に引き裂かれた。
振り返ると、マサオの姿だけが影に溶け、その影が鬼のように立ち上がっている。
恐る恐るボールを拾い上げると、中から知らない子どもの笑い声がこだまし、僕の影も水面のように揺らぎ始めた。缶蹴りはいつ終わるのか。終わるとしたら、次に鬼になるのは僕なのか。そんな不安だけが、夜のはじまりの校庭に静かに沈んでいった。
ホラー
公開:25/11/16 16:29
更新:25/11/16 19:21

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容