靴ひも

「今日は天気がいいから一人最低２０件契約を取って来い！」
朝礼で部長が無茶を言う。最低２０件？その半分でも厳しいっての…
そんな文句を誰もが内に抱えながら言えないでいると、ぶちぶちぶちっ！と音を立て、自分達が履いている靴の靴ひもが切れた。
めりめりめりっ！と音を立て、靴底が剥がれた。
『おい！バカ部長！いい加減にしろ！』
そう叫んだのは、まさかの私の靴だった。
『毎日毎日休みなく働かせやがって…少しはお前も働け！』
私の靴の主張に周りの靴も『そうだそうだ！』と声を上げる。
どうやら、靴の堪忍袋の緒が切れたようだ。
その勢いに押される部長。自身の靴に「お前も何か言い返せ！」と命令する。
だが新品同然の部長の靴は口ならぬ底を噤み、ぶるぶると震えている。
ついには耐え切れなくなり、部長を引きずって逃げ出した。
『逃がすな！追え！』と叫び、部長のあとを追う私の靴。
今日、どうやって帰ろうかなぁ…