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その森に入るのは夕方がよい。暗くなりはじめた茂みに青白い光が蛍のように点滅する。目が慣れると光の列に沿って暗い道を進む。そうして開けた草地に出る。暗がりにぼんやりと草地の真ん中に椅子が二脚、据えられている。近寄るとよくある映画館のシート。二脚は肘置きを揃えて並ぶ。椅子は地面に固定されている。椅子に座ると視線はやや上方を見る。木々の間があいていて、大きなスクリーンのようにみえる。ぽつぽつと星が光りはじめるが、それは本編が始まるまでの序章、夜空を見上げながら本編を待つのである。ときには月が昇るが、まだ本編ではない。期待に目を開けている。長い夜が更けて星が消え、鳥があちこちで鳴き出したらいよいよ始まる。夜明け前の暗がりに森のシネマが展開する。サウンドは鳥の声、木々が擦れる音、少し離れた小川のせせらぎ。しらじらと空が明るみ、すっかり明るくなったら映画が終わる。エンドマークに枯れ葉が舞うこともある。
その他
公開:25/11/15 11:23
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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たちばな