晩秋チューニング

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昔から春と秋のチューニングは難しいと言われている。夏や冬のように顕著な特徴がないから。絶妙なさじ加減を感覚――センスで補い、季節の移り変わりを表現しなくてはならない。そのセンスは、十分な鍛錬により磨かれるものなのだとぼくの師匠は言う。
「初秋の授業の時に『段階』の話をしたことは覚えているか?」
「はい。少しずつ下がる気温、弱くなる光、涼しい風⋯⋯ひとくちに秋と言っても急にはじまるものではないと教わりました」
「あれから2カ月。今日は晩秋のチューニングをおまえに任せたい。できるな?」
「はいっ!」
やっと師匠に認められたと思ったらつい力んでしまい、ぼくの吹くラッパはひどい不協和音を奏でた。そのせいで目の前のイチョウの葉が一気に黄色く染まり、種子がぜんぶ落下した。
「⋯⋯うむ、今夜はぎんなん祭りだな」
「すみません⋯⋯」
ぼくは小さく縮こまりながら、さらなる鍛錬を誓った。
ファンタジー
公開:25/11/15 09:49

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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