ほどくと、むすぶ

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まじで眠れない。
羊を数えても、億万長者になったときのお金の使い道を考えても、目は冴えるばかり。たまらず窓を開け、ベランダに出る。
ふと、ベランダの手すりに黒い糸がひっかかっているのを見つけた。糸の先は空の奥へと伸びている。
指でつまんで、そっと引っ張ってみると、空の黒色が薄くなった。
さらに引っ張ると黒色から藍色へ、それから紺青へと空の色は変化していった。面白くなって、私は夢中で糸を手繰り寄せた。
やがて、東の空は白みはじめた。

手の中には大量の糸が残った。くるくるとまるめると、夜空は大きな枕になった。
そのとき、丸め切れなかった糸の端がベランダの外へ垂れた。ちょうどその下を、出勤前の誰かがあくびをしながら歩いていた。そっとその人の小指に糸が巻きつく。ふたりは、ふと目が合い、軽く会釈する。

夜空をほどいたそのはしっこが、ふたりを結ぶ赤い糸になった。
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公開:25/11/18 04:46
更新:25/11/18 13:03

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