靴ひも

乳母から靴ひもを貰った。
「それ、馬のたてがみで出来ているんだ。だから坊やが速く走りたい時はそれを使うといい。信じればその靴ひもはきっと、坊やを速くしてくれる」
私は信じられなかった…と寂しそうに笑う乳母。
この人は父の幼馴染で、もしかしたら僕の母になっていたかもしれない人…でも、そうはならなかった。
貴族の息子だった父と牧場の娘だった乳母。
身分の差に、二人は愛し合っていたにもかかわらず乳母は身を引いたそうだ。
そんな乳母から貰った靴ひもをさっそく使わせてもらう。
乳母から聞いた。今日、僕の愛する乳母の娘が遠くに行ってしまうと。
それを引き留めるべく、僕は走る。
普通なら絶対に追いつかない。でも馬のたてがみが僕の足を速くしてくれる。
そのおかげで彼女に追いついた。彼女を引き留める事が出来た。
僕が来ると信じていた、と彼女。僕も彼女と、この靴ひもを信じて良かった。
おかげで僕達は結ばれた。