均質化装置

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未来の大学では、提出されたレポートはすべて「均質化装置」に通される。
装置は文体を整え、思考の痕跡を削ぎ落とし、完璧な均質文へと変換する。
教室に並ぶレポートは、どれも同じように整っていた。

ある学生の提出したものも、装置に完璧に適合していた。
だが、別の学生のレポートは違った。
文法は乱れ、言葉は荒削り。
それでも、そこには彼自身の思考の痕跡がにじんでいた。

装置はそのレポートを拒絶した。
「均質でないものは評価できない」と、無機質に告げる。

──静かな息づかいが、紙片に残っていた。

一人の教員はその紙片を静かに拾い上げた。

「ここにこそ、学問に向き合う姿勢がある」と。

均質な文が並ぶ中で、ひとつだけ揺らぐ灯が残った。
制度はそれを排除しようとしたが、灯は消えなかった。

揺らぎは、均質の海に小さな裂け目を刻み続ける。
SF
公開:25/11/12 08:25
更新:25/11/25 21:56
制度批評 均質

問い屋

一瞬のズレを物語に仕込み、
読み終えたあとに問いが残る作品を書いています。
答えが出ても、出なくても。
あなたの一行が、この物語の余白を広げます。

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