その気に注意

夫婦で公園を散歩していたら、１本の木の前に『その気に注意』と書かれた立札が掲げられているのを見つけた。わたしたちは足を止めて推理をはじめた。
「普通なら『この木に注意』だよな。蜂の巣や倒木の危険があって、注意喚起するために立てられるだろうから」
夫の言葉にわたしは自らの考察で補足する。
「そういうことならもっとダイレクトに『蜂の巣注意』や『倒木の危険あり』って書かない？」
「複数の危険因子をはらんでいるから、あえて『その気に注意』にしたのかも」
「蜂の巣や倒木の危険を『その気』っていう熟語で括るのは不自然だと思う」
「となると、俺たちの想像を超えるなにかがこの木のどこかに隠されているということか？」
木に蜂の巣は見当たらず、枝ぶりもよく、至って健康そうだ。しかしじっくり観察されたことが嬉しかったのだろう。ヘッドバンギングするようにワサワサと振動し、大量のどんぐりの雨を降らせた。