どうぞ、お好きな席へ

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 知り合いに頼まれ、小さなカフェで働き始めてもう4ヶ月。今のところつつがなく仕事をしている。
「いらっしゃいませ」
 その初老の男性は入口に立ったまま、しばらくモジモジしていた。
「どうぞ」
「ここいい店だね」
「ありがとうございます」
 彼はバッグから小さな写真立てを出して、テーブルに置いた。
「ホット2つ」
 私はにっこり微笑むとオーダーを通す。
「おきれいな方ですね。奥様ですか」
「まさか。母だよ。20年前に亡くなった」
 まもなく淹れ立てのコーヒーを運ぶ。彼の前に、写真立ての前にそっと。
「ずっと一緒に暮らしてたのにね。僕は仕事仕事でこうやって向き合ってコーヒーを飲む時間も作ろうとはしなかった」
「どうぞごゆっくりなさってください」
「ありがとう」
 彼は写真立てを指で撫でてから、カップに口をつけた。

 ここは天国の手前にあるカフェ。
 もうすぐこの人は会いたい人に会えるだろう。
ファンタジー
公開:25/11/14 17:36
カフェ コーヒー

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