空のコップ

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彼は毎朝、空のコップを机に置く。
何も入っていない。
水も、コーヒーも。

「満たされてると、気づけないからね」

そう言って、彼は空のまま飲むふりをする。
同僚は笑った。

ある日、彼の机に
水が入ったコップが置かれていた。
誰かが気を利かせたらしい。

彼はそれを見て、
静かに棚にしまった。

次の日から、彼は何も置かなくなった。

「満たされると、気づけなくなるからね」

そう言って、彼は黙って席を立った。

机の木目には、
空のコップの跡が残っていた。

それは、
誰にも見えない水のかたちだった。
その他
公開:25/11/10 09:17
更新:25/11/10 09:17
欠如と気づき 不可視の痕跡

問い屋

読み終えたあと、小さな違和感が残る短編を書いています。
その余韻が続く作品は、noteにまとめています。

https://note.com/toiya_story

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