ビール王
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老人に導かれ錆びた扉を開けた。黴臭い室内に吊るされていたのは黒ずんだ革袋だった。表面には固く皺が寄っているが、縫い目を見ると産毛のようなものがヌラヌラと黒光りしていた。
「これがビール王の……」
老人は目で頷いた。
ビール王は、ビールを偏愛したドイツ諸侯ルドルフ・ハイネケンの二つ名だ。ハイネケンは残忍な君主で、ビールが不味いだけで躊躇なく臣下を処刑した。最後は大臣らによって毒殺されたという。
この革袋は、殺害された王の皮を剥いで作られたものだという。私は持参のビールを袋に注いだ。泡がじわりと滲み、革が呼吸するように膨らむ。次の瞬間、底の縫い目が震え、湿った音が漏れた。
「はばぁ~、うぐぁあぁぁぁ」
老人がヒイッと悲鳴をあげる。
蘇ったビール王の声。それが、久しぶりに味わうビールへの歓喜の声なのか、毒殺の苦しみを思い出した怨嗟なのかは分からない。私の口の中に苦い汁が広がった。
「これがビール王の……」
老人は目で頷いた。
ビール王は、ビールを偏愛したドイツ諸侯ルドルフ・ハイネケンの二つ名だ。ハイネケンは残忍な君主で、ビールが不味いだけで躊躇なく臣下を処刑した。最後は大臣らによって毒殺されたという。
この革袋は、殺害された王の皮を剥いで作られたものだという。私は持参のビールを袋に注いだ。泡がじわりと滲み、革が呼吸するように膨らむ。次の瞬間、底の縫い目が震え、湿った音が漏れた。
「はばぁ~、うぐぁあぁぁぁ」
老人がヒイッと悲鳴をあげる。
蘇ったビール王の声。それが、久しぶりに味わうビールへの歓喜の声なのか、毒殺の苦しみを思い出した怨嗟なのかは分からない。私の口の中に苦い汁が広がった。
ホラー
公開:25/11/09 22:25
3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。
子どもの頃「将来の夢は小説家」と言っていました。
「note」にも、細々と500字程度のショートショートを書いています。
https://note.com/sirino
【トピックス】
・第16回「1ページの絵本」入選
・第20回「坊っちゃん文学賞」佳作
・プチコン5 ~遊園地~ 優秀賞
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尻野ベロ彦