真空のコップ

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 僕のお父さんはよく仕事で出張に行くからあまり家にいない。少し寂しいけれど、家にいるとお母さんとケンカばかりするからいないほうがいいかもしれない。
 お父さんがどこかに出張に行った時、お土産に真空のコップを買ってきてくれた。このコップに水を入れると、まるで吸い込まれたみたいに消えてしまう。
 ある日、僕は親友のヒロシとケンカをした。僕は家に帰っても悔しくて泣いてしまった。
 その時、たまたま机の上にあったコップに僕の涙が落ちた。すると、涙は吸い込まれて消えてしまった。と同時に、僕の悲しい気持ちもどこかに消えて無くなった。
 お父さんとお母さんはケンカをしなくなった。前は大きい声で言い合ってお母さんが泣いていることもあったのに。
 しばらくして、お母さんがいなくなった。僕はお父さんと暮らすことになった。お父さんは僕に、「寂しくないか」と聞いた。
 僕は、「コップがあるから平気だよ」と答えた。
ファンタジー
公開:25/05/09 07:05
更新:25/05/09 07:09

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