余白は広め

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マグカップに5分の1程しか残っていない珈琲の水面には、蛍光灯の青白い光がくっきりと浮かんでいる。パソコン画面からチクチクと私を急かすカーソルの点滅。アラームのように痙攣し出す瞼。

(…そろそろ気分転換が必要だ)

静寂に密封された部屋で私はコキンと両肩を回して深呼吸すると、文書作成ソフトの余白の設定を【広い】にして暫くの間、目を閉じた。

パサ⋯パササ…

(…来たっ!)

来訪者を驚かせないようにそっと視界を塞ぐ瞼の幕を開いていくと、広大な余白の中にフォントサイズ10.5ポイントの白鳥の群れが集まってきて、優雅に羽を休めていた。

運がよいと出会える余白鳥。
丑三つ刻にありとあらゆる余白へ降り立ち、夜明けとともに飛び去っていく姿はいつ見ても美しい。

飲みかけの冷えた珈琲を飲み干す。
胸のあたりで羽音が聞こえた。
ほっとひと息ついたからだろう。

ここにもちゃんと余白ができたみたいだ。
その他
公開:25/05/08 22:20
更新:25/05/08 22:29

花笑みの旅人( 気の向くまま )

作品を開いてくださりありがとうございました〜

時々気まぐれに投稿するかもしれませんが、基本的には引き続きお休みです。

2025.5.8

 

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