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「好きなんだよね」と彼女が言った。
「大好きだけど友達がいいんじゃないかなって思う。ごめん」

彼女の気持ちには気づいていながら、その心地よさに甘え、来てしまった温泉旅行。朝日が差し込む露天風呂に二人。

「最後にお願いがあるんだけど…」彼女が言おうとしていることを察して身構える。

「キスしたい」

言葉は予想通りだったが、次の瞬間、彼女が複雑な表情で顔を背けた。
その一瞬の“恥じらい”に、予期せず愛しさが込み上げた。

「恥ずかしい?」

口にした瞬間、自分が空気を変えてしまったことに気づいた。
恋愛関係に違和感があったのは間違いないはずなのに。
唇に触れ、舌に触れ、逃がしたくなくて、彼女の指を握る。

「一生忘れられないな」思わず呟くと
「忘れてよ」と彼女は笑った。

胸の奥に、熱をもった何かが痕を残した。
恋愛
公開:25/05/06 10:49
更新:25/05/06 10:55
2つの視点 大人の恋愛 片想い

葛木あかり

言葉で心をつかむことが好きな、物語を書く人。日常の中にひそむ微細な感情を描きながら、読者の心に触れる瞬間を目指しています。小さな出来事や思いが生み出す大きな感情を、少しの言葉で伝えることが魅力だと感じています。

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