刺繍守り

0
4

おばあちゃんの趣味は刺繍だ。
Tシャツにバッグ、ハンカチにスニーカー。布でできていればどんなものでも個性がキラリと光る品物に変えてしまう。
フリマアプリにハマっているわたしは、なんの気なしに提案した。
「こんなに素敵なものだったら、いろんな人に目を留めてもらえると思うよ」
「うふふ、それはちょっと……できないかしら」
「どうして?」
「見ていてごらんなさい」
おばあちゃんはそう言って、白い鳩の刺繍を施した一枚のハンカチを庭で振ってみせた。するとまるで手品のように本物の鳩がなかから現れて飛び去ったのだ。
「今のって、どうやったの!?」
「『さよなら』って言っただけよ」とおばあちゃんはほほえんで続けた。「刺繍はお守りなの。私は家族を守るだけで精一杯だわ」
「そっか……」
わたしはスマートフォンを閉じて、おばあちゃんといっしょにお茶を飲むことにした。
その他
公開:25/05/05 16:25

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容