恋を知った日に

0
1

好きだなぁと、ぼんやり思った。
特に思い当たる理由はないけれど、目で追う回数が増えた。視線が重なった事はない、多分私の存在すら知らない。私だってあの先輩の名前を知らないのだから。

雨の日は、少し髪がうねうねしていた。
数学が赤点だったと落ち込んでいた。

飽きない表情を見せてくれる先輩は、私の何気ない日常を少しだけキラキラにしてくれたのだ。

「告白、した」

友達との会話が、響いた。
顔を見る勇気がなかったけれど、成功したのは声色で分かった。震えるように、そこに嬉しさが混ざったような初めて聞く声。

「ずっと好きだったもんな」

私は、顔を上げた。
今この瞬間しか見られない先輩の顔がきっとそこにあるから。ゆっくり前を見たその時、重なった気がした。初めて私は存在を視認されたのだ。

騒ぐなと友達にちゅゆういして、会釈をされた。
少し照れたような横顔、その顔をさせたのは間違いなく私だった。
恋愛
公開:25/05/06 22:38
恋愛 先輩 片思い

A87(あやせ)

短いお話が好きです
幸せだけでは無いお話が好きです

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容