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女が踏み出そうとした時、屋上に着信音が反響した。図書館からのメールだ。『返却期限が迫っている本があります』とある。また本を返すのを忘れていたらしい。
女は人生で一度も期限を超過した本がないのをひそかな誇りとしていた。本は必ず返さなければならない。故にいつも、貸出図書が手許にないことを確認して屋上を訪れるのだが、毎回メールが届いてうっかり返しそびれていた本の存在を思い出すのだ。
そこで、ついに女は退館手続きを行った。対応した司書は戸惑う。その司書とはたまに世間話をする程度の仲だった。彼女は静かにカウンターの下から1冊の古本を取って、女に差し出した。
「私の本ですがお貸しします。返却は読み終わった後で構いませんから」
その夜。女は本を開き、細やかで丁寧な筆記の中、点々と綴られる自分の名前を見た。
それは6年間にわたって受けた罵倒、嘲笑、窃盗、書き手の心境が克明に記録された日記だった。
女は人生で一度も期限を超過した本がないのをひそかな誇りとしていた。本は必ず返さなければならない。故にいつも、貸出図書が手許にないことを確認して屋上を訪れるのだが、毎回メールが届いてうっかり返しそびれていた本の存在を思い出すのだ。
そこで、ついに女は退館手続きを行った。対応した司書は戸惑う。その司書とはたまに世間話をする程度の仲だった。彼女は静かにカウンターの下から1冊の古本を取って、女に差し出した。
「私の本ですがお貸しします。返却は読み終わった後で構いませんから」
その夜。女は本を開き、細やかで丁寧な筆記の中、点々と綴られる自分の名前を見た。
それは6年間にわたって受けた罵倒、嘲笑、窃盗、書き手の心境が克明に記録された日記だった。
青春
公開:25/05/06 14:17
思いついたアイデアの備忘録を兼ねて書いています。また、他作者様との交流も楽しみたいです。よろしくお願いします!
Talesにて連作を執筆中です。鉱物や宝石にご興味がありましたらぜひご覧ください!
https://tales.note.com/creche_collage/wmnx0phfegkgm
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