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「言いにくいんだが」

娘を見送り、昨晩の残りをお弁当に詰めていると、背中越しに夫の声が掠れた声で届いた。

「おれは」
「会社、クビになったんでしょ?」

振り向きざまの私の言葉に、夫は口をつぐんだ。

テーブルに近づき、私は夫の頭部を持ち上げた。目の奥を覗くと夫の首が鳴った。

気づいたのは今朝だった。夫の頭が枕に乗ってないので、持ち上げてみるとやけに軽い。うまく枕に乗らず首がコロコロ転がるので仕方なくテーブルに置いた。

(今日まで言えなかったのね)

少し寂しい。でも。

「でかけましょ」
私の提案に夫は目を見開いた。
「どこに」
「さあね。でもお弁当、二人分作ったのよ」

先のことなんてわからない。
でも、今日は二人分のお弁当を一緒に食べなくちゃ。

ピクニックバッグに夫を詰めた。見上る夫の視線が照れ臭くなり、お弁当箱を夫の上に置いた。

「苦しい。死ぬ」

夫のクビが呟いた。
青春
公開:25/05/01 15:37

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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