祖父とみかん

0
3

冬のこたつで、祖父とミカンを食べていた小学生の頃。
「ミカンはな、誰かのことを想いながらむくと甘くなるんだ」
そう言って、祖父はゆっくり皮をむいた。私はその話が気に入って、次の日から毎回誰かを想いながらミカンをむいた。友達、先生、そしてちょっと気になるあの子。

それから十数年。祖父は他界し、私は社会人になった。仕事に疲れ、ふと実家に帰ると、仏壇の前に祖父が好きだったミカンが供えられていた。

私はそのうちの一つを手に取る。あの頃と同じように、誰かを想いながら皮をむく。

――ありがとう、おじいちゃん。

ミカンは、あの頃と変わらず、優しく甘かった。
その他
公開:25/05/03 19:59

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容