小さな大道具

最近、彼の帰りが遅い。
テレビ局で大道具として働いている彼。
そりゃ、時期的に忙しいのも分かるし、大変なのも分かる。でも、いくら何でも毎日遅すぎる。だから最近、彼の浮気を疑ってしまっている。
仕事の都合上飲み会だって多い。酔った勢いで…なんて考えたくないものを想像してしまう。
だから私は夜遅く、彼に差し入れを持って来たという体でテレビ局へとやって来た。
驚かせたいからと言って、私の来訪を彼に告げないようお願いする。彼のいる部屋を教えてもらう。
少しだけドアを開け、中の様子を確認する。…いた。
部屋には彼一人。こちらに背を向け、何か作業をしているようだ。浮気でなくてホッとする。
「お疲れ様。一人で何やってんの？」
思い切って部屋に入る。
彼は私に驚くも、手元のそれに視線を送り、私を見つめた。
「人生の大道具を作っていた」
彼が見せてきたのは小さくも美しい指輪だった。
「僕と、結婚して下さい」