フレンチトースト

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卵と牛乳を混ぜる音。バターが溶ける甘い香り。
フライパンの中で、食パンがきつね色に色づいていく。
すべてが、あの日と同じだった。

土曜日の朝。隣でまだ寝息を立てているあなたが起きてくる前に、得意げに作ったフレンチトースト。

「わあ、おいしそう」って、眠そうな顔で笑ったあなた。
それが、あなたが私のために淹れてくれたコーヒーと
一緒に食べた、最後のフレンチトーストだった。

そのあと、何があったか、今はもう鮮明には思い出せない。
ただ、目の前のフレンチトーストを見ていると、じんわりと胸の奥が熱くなる。

きっと、あの時感じていた幸福と、その後に訪れた喪失の味を、この甘さの中に無意識に探しているんだ。

一切れを口に運ぶ。

うん、美味しい。

でも、あの日の味じゃない
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公開:25/04/29 16:52

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