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川が流れるように動く人の波に押されて小高い丘へ行けば、ここは夢にまで見た楽園だったのだと改めて心ふるえた。足もとから頭上の遥か高くまで、人の手を入れ仕立てられた色とりどりの花であふれていたのだ。
満開を迎えた藤の前で呼び止められてカメラのシャッターを押すと、伝言預かり所へ赴き、妻にメッセージを残した。

「こちらは毎日気候が良くどこへ行っても花が美しい。あなたと散策するのが楽しみです」

連絡はいつも一方通行だから返事は期待していなかったが、今日は様子が違った。受付の者が奥の間より一通の手紙を持ってきたのである。そこには妻の字でこう書かれていた。

「先日、わたしもこちらへやってきました。橋の下で待っています」

妻は私の分までだいぶ長生きしてくれたようだ。私ははやる気持ちを抑え、約束の場所へ向かった。
ファンタジー
公開:25/04/29 11:34
更新:25/04/29 11:44

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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