完全食アプリ

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食事はアプリで済ませる時代になった。
アプリを起動すると、脳に必要な栄養が即座に分析され、身体に最適な“完全食データ”が配信される。
食べ物は要らない。満腹中枢は刺激され、味も記憶から再現される。カロリーはゼロ、時間もかからない。

「これさえあれば、もう食事はいらないね」
そう言って、誰もが食卓を捨てた。

夕食の匂いも、会話も、箸の音も、この世界から消えた。
それでも誰も困らなかった。“栄養は足りている”のだから。

けれどある日、少年が言った。

「ぼく、カレーの匂いって知らないんだ」

祖母の遺品から出てきたレシピノートを抱きしめ、少年は泣いた。
そこには、手書きの字で「カレーは人を笑顔にするよ」と書かれていた。
その涙の意味を、アプリは最後まで理解できなかった。
その他
公開:25/05/01 11:48

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