クマに死んだふり

山でキノコ狩りをしていると運悪くクマと出くわしてしまった。
私はとっさに死んだふりをする。が、クマに死んだふりは絶対にやってはいけない行為だ。
起き上がって急いで逃げるか？…無理だろう。クマは時速４０キロで走ると聞く。到底逃げられるとは思えない。
もう終わりだ…死を覚悟したその時だ。
クマは懐からスマホを取り出すと電話をし始める。
それからものの数分で警察と救急車が駆け付けた。
「しっかりして下さい！意識はありますか？」
私が「大丈夫です」と答えると救急隊員も警察もホッとしていた。
「先程、あちらのクマさんから『山で人が倒れた。多分毒キノコを食べたんだと思う』と連絡を受けたんです」
クマは賢い生き物だと聞いた事がある。今も少し離れた場所から心配そうに私を見つめている。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ…穴があったら入りたい…が、ここでそんな事を口にすれば、熊の巣穴へと招待されそうだと思った。