バイオリンの神様

ウチの牧場では毎日、馬にバイオリンの演奏を聞かせている。
主に弾いているのは私の母。元プロで、演奏の腕は中々のものだ。
それでも時々、現役のプロを呼んではその演奏を馬に聞かせる。
勿体ない…どうせ聞かせるなら人に聞かせた方がいい。金が取れるレベルの素晴らしい演奏であっても、馬は興味がなさそうだ。
まさに馬の耳に念仏。馬にバイオリンを聞かせる意味が分からない。
「意味ならあるさ」と父。
「ここで暮らす馬の尻尾の毛はな、バイオリンの弓毛に使用すると凄く良い音色がするんだ。いいバイオリンの音で育った馬は良い弓毛を作り出してくれる。ここの馬にはな、バイオリンの神様が宿っているんだ。そんな馬達に下手な演奏を聞かせてみろ。神様は馬鹿にされたと思って出て行ってしまう。だから、素晴らしい演奏を聞かせているんだ」
神は細部に宿ると聞いた事はあるが、まさか馬の尻尾にまで宿っているとは思わなかった。