風と雲
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ある春の日の昼下がり、河原の土手を見下ろす道に、パトカーが入ってきて、停車する。パトカーの後部座席のドアが開き、二人の警察官と、手錠をはめられた中年男が出てくる。中年男は、手に、綿毛になったタンポポを持っている。一人の警察官が、風向きを調べる。そして、中年男にうなずく。中年男は手錠をはめられた手を顔の前に掲げ、タンポポの綿毛を吹く。綿毛は、風に乗って、土手へと舞い散る。それを見届けると、警察官は中年男を促し、三人はパトカーの中へ戻る。そしてパトカーはゆっくり土手を去る。一部始終を見ていたのは、雲だけだ。
その他
公開:25/04/27 20:46
短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/
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