そっちではありません。

シェフは杓子を持つ手を止めた。

今煮込んでいるのはスープか？そうだ。
魚のスープ？ちがう。
ウミガメのスープか？そうだ。

そうだ。俺はこの店でウミガメのスープを作った。それを食った男は会計を済ませると自ら命を絶った。店の外で凄い音がしたんだ。何か理由があったんだろうが死なれた方はたまったもんじゃない。あれのせいで店は潰れ、俺はシェフを辞めた筈なのに…何でまたスープを作っている？

俺はシェフか？はい。
どこか別の店で雇われた？いいえ。
前と同じ店なのか？はい。
その店は再建した！ちがいます。

わからない。俺が前と同じ店でシェフをやってる？ありえない。同じ時間が繰り返されない限りは…。正解です。

え、これ正解？
ふぅーん…

ッわかった！スープを出さなきゃいいんだ。そうすれば男は死なない。
オイ！スープは今出せないと客に説明してくれ！いーから！

――さ、こいつでシチューを作るぞ。