名画でショート055『レディ・ジェーン・グレイの処刑』(ポール・ドラローシュ)

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赤タイツの男は、無駄で無意味な儀式が終わるのを待ち続けていた。
地下室に連れてこられたのは、目隠しをしたうら若き少女。権力欲に取りつかれた父親によって、望みもしない王位につかされ、父親が戦争に敗れると女王になったばかりに、処刑される運命となった。
元女王に寄り添う司祭の役割は、目隠しをされた少女に、斬首台の位置を教えること。
後ろで嘆く侍女たちを慰めることでも、いまから首を切られる少女に心の安寧を与えることもでない。
全てはショーであり、全てはストーリーなのだ。彼女に咎がないことは誰もが知っている。だが、少女は処刑されなければならない。少女の死によって、ストーリーは完結する。
少女の血を吸うための藁は、斬首台の下に積み重ねられている。
少女の首が落ちると、この国は次なるショーとストーリーを求め始める。
全てを知っている赤タイツの男は、ただひたすら、自らの役目をこなすのみ。それを見守るのみ。
公開:25/04/19 07:04

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