近所の神社にて

しばらく空き家だった近所の神社にやっと借り手がついたと聞き、私は挨拶に伺った。
「貴様がここの神主か？今日から世話になるぞ」
ピンと真っ直ぐに立った獣耳とモフモフした尻尾が特徴のお稲荷様。
私は首を傾げてしまう。お稲荷様と言えば、五穀豊穣を司る神様。
しかし、ここら一帯はベッドタウンで農業に携わる機会なんて殆どない。ここで本当にやって行けるのだろうか？
…なんて心配していたが、お稲荷様はすぐにここになくてはならない神様となった。
ベッドタウンだからこそ、家に帰っても一人の子どもが多い。そんな子どもにお稲荷様は寄り添った。
遊び相手になり、話相手にもなった。お腹を空かせている子どもには食べ物を与え、学校に通う子どもの安全を見守った。
「儂は農業はてんでダメだが、家内安全や交通安全には自信がある」
そういえばお稲荷様は今、守護神としての一面も持っている。
「今は神様だって転職できる時代じゃよ」