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町内会の美化活動で神社の境内を清掃中、ご神木の桜の枝にわらじが結んであるのを見付けた。
子供に履かせる様な小さなわらじで、鳥居のしめ縄を抜いて編んだのか、鼻緒代わりに紙垂を撚ったものがすげてある。藁人形に五寸釘なら丑の刻参りだが、現在は真昼の午の刻。大方近所の子供のいたずらだろう。宮司さんに相談の上、そのまま触らずにおく事にした。
七日の後、花盛りを迎えたご神木の下、幼い女の子が一人梢を見上げていた。
この辺りでは見かけない、時代がかった格好の子だ。薄紅の浴衣におかっぱ頭、足に履いているのは、例の午の刻のわらじだった。
「どこに行くんだい?」
思わず尋ねると、振り返ってにこりと笑い、細い腕で空の上を指す。
降りしきる花びらにまぎれ、駆け去る足音を聞いた気がした。
あのわらじは、天へ旅立つご神木へのはなむけだったのか。
誰が結んだかは知れないまま、その年を最後に桜は二度と咲かなかった。
子供に履かせる様な小さなわらじで、鳥居のしめ縄を抜いて編んだのか、鼻緒代わりに紙垂を撚ったものがすげてある。藁人形に五寸釘なら丑の刻参りだが、現在は真昼の午の刻。大方近所の子供のいたずらだろう。宮司さんに相談の上、そのまま触らずにおく事にした。
七日の後、花盛りを迎えたご神木の下、幼い女の子が一人梢を見上げていた。
この辺りでは見かけない、時代がかった格好の子だ。薄紅の浴衣におかっぱ頭、足に履いているのは、例の午の刻のわらじだった。
「どこに行くんだい?」
思わず尋ねると、振り返ってにこりと笑い、細い腕で空の上を指す。
降りしきる花びらにまぎれ、駆け去る足音を聞いた気がした。
あのわらじは、天へ旅立つご神木へのはなむけだったのか。
誰が結んだかは知れないまま、その年を最後に桜は二度と咲かなかった。
ファンタジー
公開:25/04/14 16:11
ラジオ『月の音色』
月の文学館
テーマ:近所の神社にて
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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