ザザの魔法のカクテル

　ある小さな町に、「水の魔女」と呼ばれる、への字の口が特徴的なザザという女性が住んでいた。

　バーを営む彼女は、特別なレシピを持っていた。それは、呑んだ人の悩みを消し去るカクテルだった。

　ある雨の夜、びしょ濡れの男が店に飛び込んできた。漂う濃い酒の臭いが心の乱れが伺えた。

「会社をクビになって…俺はもうダメだ」
と呟く彼に、ザザは静かにバーカウンターへ向かう。

　カシスリキュールとノンアルコールワインでキールを作り、「いい歳して相変わらずだね」と渡した。

　一口飲むと、男の顔から暗さが消え、笑みが戻った。

「なんだか軽くなった」

　だが、彼の薬指に残る、指輪の日焼け痕と新たな指輪を見て、ザザの顔に影が落ちる。

「これで自分も慰めれたら」

　独り、カウンターで気泡を見ては目を細めた。指輪が悲しげにキラリ光った。