推し花特等席

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おばあちゃんの家は大きな河川の近くにあり、毎年春になると土手沿いに植えられた桜がそれはもう見事に咲き誇っていた。
一緒にお花見にいくと、おばあちゃんはかならず自分が飲むわけでもないのにガラスコップ入りのお酒を持ってでかけた。
「今年も特等席を用意してあげるの?」とわたしがきくと、「そうだよ。桜だって、自分の姿を見たいだろうからね」といいながら、おばあちゃんはその年の『推し花』のところへさくさく歩いていって、カップ酒の蓋をパカッと開けるのだ。
ちいさなスクリーンに映る桜は、写真より不鮮明なのに美しく儚げで、むかしの映画俳優のように堂々として見えた。
今年はひとりでお花見をすることになってしまったけれど、何度か足を運び、推し花を決めた。
飲めないお酒を料理に使う器用さがわたしにはないから、ペットボトルの水を器に注ぎ、特等席を用意した。
その他
公開:25/04/10 08:21

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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