ナイト・ミュージアム

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甲冑に身を隠すとKの夜勤が始まる。概ね2時頃には館内は主のない影でピークを迎えた。影は各々特定の作品の前に立つと朝まで観ている。
「ご主人の誕生日にはね」正面に常連の影が現れた。「貴方がいいと思うの。でも親を説得しなきゃ…だからじっくり見させて。ご主人の〈好き〉を持って帰るために」
影が集中できるように監視員は存在を消している。暗闇でKは静かに頷いた。
(勿論。ここは〈好き〉を思い出す場所なんだから)

次の夜から常連は現れなかった。その事がKを満足させた。

ある日、日勤中にKがショップを覗くと、武将家紋の柄の真新しいトートを提げた少女がいた。甲冑の複製を見ている。ご主人だ、と彼は確信を得た。
(複製は買ってもらえなかったんだな。なにせ80万もするんだぜ。でも君ならいつか手に入るよ)

彼は夜勤で凝った身体を伸ばす。午後の陽に映る薄い影を、母親に手を引かれ急かされる子供が踏んで行った。
ファンタジー
公開:25/04/08 12:29

紅石紗良

よろしくお願いします!

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