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森でキャンプをしていたら見知らぬ老人が現れた。重そうな木製の杖を引きずっていてかなり息切れしている。
目が合うと、老人は私を手招きして呼び寄せた。
「この杖を預かってくれないかの。いつかかならず役に立つ日がくるのじゃ」
よくわからないが、あまりにも懇願されるので預かることにした。すると老人は背筋を伸ばし、笑顔で走り去った。

そんな出会いから五十年経ったので試しに
杖を握ってみたが、私にはどうもしっくり来ない。かと言って預かり物を処分するのも気が引ける。
記憶を頼りに森に分け入ると、樹木が切り倒され、昔とはすっかり様変わりしていた。そこにかつての老人が現れたため、私は安堵しながら杖を手渡した。
「頼まれてくれてありがとう。これで本分をまっとうできるぞよ」
そう言った老人が力を込めて地面に突き刺した杖は、あっというまに空高くまで育ち、若葉を豊かに繁らせた。
老人はいつのまにか姿を消していた。
ファンタジー
公開:25/04/05 04:26
更新:25/04/05 09:47

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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