視線の先に

「…いいんじゃないか」
企画書を読んだ部長がそう呟いた。
…それだけ？もっと他にコメントはないのだろうか？
ここが良かったとか、ここを直したほうがいいとか、そんな言葉が欲しいのに部長はいつも多くを語ってくれない。
この企画書、かなり頑張ったんだけどなぁ…
部長の渋面を見る限り、どこか厳しいところがあったかもしれない。次、また頑張ろう。

今年入ったばかりの新人が企画書を見てほしいと俺のところにやってくる。
彼女の企画書を読んで、俺はいつだって驚かされる。斬新なアイデア、滲み出るバイタリティ。
非の打ち所のない企画書に唸らされるばかりだ。文句のつけようがない。
なら、素直に褒めようかとも思った。だが今は何かとハラスメントが叫ばれる時代。
俺みたいなおっさんが偉そうにコメントしたら、キモイって思われそうで、当たり障りのない一言で終わらせてしまう。
何か気の利いたコメントの一つでも言えたらなぁ…