バー

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 その男は、蚊のためのバーのような存在だった。
 その男の血は、蚊たちを気持ち良く酔わせる成分が入っていた。
 悲しいことがあった蚊や、辛いことがあった蚊が、男の血を吸いに来た。男の血を吸うと、蚊たちは明るい顔で飛び去っていった。男はそのことを誇りに思っていた。
 ある日、男は交通事故に遭った。病院に運ばれた男は、薄れゆく意識の中で、頑なに輸血を拒否し、死んだ。
 男の葬儀では、線香の他に、蚊取り線香を焚かねばならなかった。
その他
公開:25/03/28 22:59

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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