視線の先に

「ちょっとコンビニ行ってくる」
夜９時。スマホも持たずに父が家を出て２時間経つ。私はたまらず父を探しに家を飛び出した。
父はすぐに見つかった。近所の公園で缶ビール２並べて楽しそうに喋っている。
誰と話しているんだろう？父の隣には誰もいない。父のスマホは私が持っている。
酔っているのか？駆け寄ると父は不思議そうに「どうした？」と聞いてくる。ビールの蓋は開いていない。
「さっきコンビニでばったり隆と会ってさ」
隆とは父の親友で、私はその隆おじさんの事で父を探していた。
「隆が…死んだ？そんな…嘘だろ。だって隆はさっきまで俺と一緒に…」
スマホを渡す。おじさんの奥さんと話をする父。
「…隆はまだ俺の目の前にいる。すまんが、先に帰っていてくれ…」
電話を切った父が小さく呟いた。その嘘に今は騙されよう。
父に背を向け、公園を出る。
振り返ると声を押し殺して泣く父の背を優しく撫でる隆おじさんが見えた。