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その男には金も身内もなかった。
職はあったのだが病に罹り床に伏し失職。医者にかかる事も出来ず、ただ最期を待っていた。
ある日そんな男のもとに、石彫家となった友人が訪ねてきた。
「わかった…君には借りがある」
友人は男の話を聞き言うと、玄関に花崗岩を運んできて鑿だの小槌だのを使い、一体の石仏を完成させた。
「なるほど…疫病退散か。ありがたい」

それから男のもとへ石仏への礼拝を申し出る人が続き、そのうちの一人に男は尋ねた。
「噂で聞いたというのはわかりました。でも何故みんな石仏ではなく僕を拝むんですか?」
「いや、貴方の下にある石仏を拝んでます」
そう、友人は磨崖仏も完成させていたのだ。
磨崖仏は懸崖に彫刻される事でも知られる石仏だ。つまり”崖っぷちに立つ”男のその崖にも、仏は彫られていたのだ。

その後、男は人々から参拝料をとるようになると人生にも余裕ができ、磨崖仏も見えなくなったという。
ファンタジー
公開:25/04/01 08:00
更新:25/04/01 03:25
磨崖仏

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