視線の先に

竜宮城から戻ってきた僕は家も、家族も、友達も、何もかもを失っていた。
失意のどん底にいる僕に唯一残されたものと言えばこの玉手箱…藁にも縋る思いで、それを開けようとした。
「ちょっと待ったああぁぁぁ！」
背後から鶴が飛んできたかと思うと、玉手箱をひっつかみ、遠くへと投げ捨てられた。
なんて事してくれたんだ！
「あれを見てください」
遠くの浜辺に転がった玉手箱。その中から煙が出ており、それを吸ったウミガメの赤子が恐るべき速度で成長していく。
あれを吸っていたら僕も凄い勢いで歳を取っていただろう。
「危ないところでしたね」
そう話す鶴は昔、罠にかかっていたところを僕に助けられ、その恩返しに来たのだという。
「貴方に恩返ししたいのは私だけではありませんよ」
鶴の視線の先を見る。６体のお地蔵様がこちらへとやってくる。
お地蔵様は「笠のお礼だ」と言って、僕に家族と友達の今の住所と連絡先を教えてくれた。