定年退職の日

最後の出社日。職場で挨拶を済ませ、小さな花束を手に私はビルのエントランスロビーのソファに一休み。
二つの秘密の手紙。メールでは送りたくはない。一つは上司Ｑのこと。部下扱いがうまい上司。十数年前、私はＱの不正に気づいた。下請け会社を操りリベートを受け取る。注意しようとした私は北海道支社へと左遷。妻と離婚した。五年後、本社に戻るとＱは本部長に昇進している。そっと調べると以前の不正を続けている。規模も大きい。私は証拠を集めた。この手紙をコンプライアン室に送れば告発できる。
もう一通はＱ宛て。Ｑはコミュニケーションが上手な女性上司だ。Ｑの部署に配属された私はＱと深い仲になった。会社で知られそうになるとＱは私を北海道に転勤させた。支社への出張を装って密会は続き、私は離婚した。本社に戻ってからもＱとの逢瀬は続く。私はＱと一緒に棲みたい。プロポーズの手紙だ。
ビルの横のポストに二通の手紙を投函した。