春風が頬を撫でる

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 自転車を漕いだ。しばらく走っていると景色が住宅街から田んぼに、そして麦畑に変わった。いつもの角を右に曲がった。

 少し走ると遠くで黄色いなにかが動いているのが見えた。なんだあれ、ああ鳥だ。川によくいるキセキレイだった。キセキレイを見たのは、中学生ぶりだろうか。川を通る機会が少ないから、見る機会も少なかった。
 せせらぎに誘われるかのように僕は自転車を漕ぐ足を止め、小川の方に目を向けた。川岸に1本の柳が生えている。葉は青く色づき始めていた。そうか、もうこんな季節か。

 あれはいつのことだったか。幼い頃、よく母とこの辺りに散歩に来ていた。ちょうど今頃の時期だっただろう。

 ふと思い出した母の顔に懐かしさを感じた。
 静かに涙が頬につたった。春風が吹く。まるで僕の涙を誘うかのように。
その他
公開:25/03/26 02:01

石鳥 光

鳥と音楽が好きです
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