測度の敗北

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計測不能な刻みを刻む時計を眺め続けた。確かなのは針の存在だけで、その動きが錯覚か真実かは決定不能問題だった。
行為は実在するが、意図は幻想だ。自由意志という嘘が神経伝達物質の電気的興奮に過ぎないと知りながら。
「わたしたちは互いの仮説でしかない」と彼女は言う。彼の脳内で生成された声。あるいは外部からの刺激。区別は意味をなさない。
彼は窓を開ける。風は入るが、それを感じるのは触覚ではなく、風を感じているという認識の方だ。原初の感覚は永遠に接近不可能な領域に留まる。
「認識とは常に過去形である」という真理を彼は黙認する。今この瞬間に気づいた時、それはすでに過ぎ去った現実の死骸である。
彼の頭痛も、部屋の温度も、すべては同一の存在論的地位を持つ。区別は恣意的にすぎない。
「確信とは無知の別名だ」と彼は結論づける。実際には結論など存在せず、ただ思考の流れが一時的に淀むだけだと理解しながら。
その他
公開:25/03/21 06:55

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