蒼炎の忘却

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「恒常性は幻想に過ぎない」と彼女は囁く。その声は部屋を満たすことなく、むしろ空間から音を奪い取るように響く。

「武器とは何か」という問いが、彼女の脳裏で結晶化する。防衛でも攻撃でもなく、単に「選択の具現」であると彼女は悟る。選ばれなかった可能性の墓標。

机上の瓶に手を伸ばす。透明な液体が光を屈折させ、内部で虹彩が踊る。飲めば死に至る毒か、あるいは万能の霊薬か—答えは両方であり、どちらでもない。

「本質は見る者の眼差しの中にある」

彼女は瓶を開け、しかし飲まない。窓の外では、青い炎が街を焼き尽くしている。しかし炎は何も破壊せず、ただ既存の輪郭を再定義するだけだ。

「忘却も一つの手段だ」と彼女は理解する。過去を失くした者は、未来を自由に描ける。

扉に向かう。扉を開ければ、そこは同じ部屋なのかもしれない。

結論は開いてみなければ分からない。それこそが選択という名の武器だった。
その他
公開:25/03/22 07:39

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