錬成の詭弁

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彼は黄変した手稿を広げ、金の生成過程を解読した。原子は熱に融け、欲望はその融点で結晶化する。

黄金を秤で測り、そのアンバランスを確認する。秤の皿は平衡せず、揺れ続けた。

鉱脈は地層を貫き、彼の掌にある延べ板は光を屈折せず吸収した。「金は光の解毒剤だ」と彼は考察し、その表面に息を吹きかけた。曇りは生じず、彼の呼気だけが凍結する。

錬金台の上で、彼は王冠を溶かした。流動する金属は形を拒絶せず受容し、彼の想念だけを侵食した。「物質は手段ではなく、観測行為の具現化だ」

灯明に照らされた金貨は影を落とさず、むしろ周囲の影を吸い取った。彼はそれを指先で回転させ、硬貨の縁が時間を切断する。

「変質しないものは、既に死んでいる」と彼は断言し、金貨を酸に浸した。反応は生じない。

彼の研究室の窓から見える市場は、金の流通ではなく、想像上の交換価値の循環だけが続いていた。
その他
公開:25/03/21 19:12

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